遺族厚生年金の支給要件

遺族厚生年金は、厚生年金への加入が比較的短期間の人と比較的長期間の人で年金額や加算額などの取り扱いが変わってきます。

死亡した被保険者等が短期要件と長期要件の両方を満たす場合は、別段の申し出をしたときを除き、短期要件のみに該当するとみなされますから、ケースによっては長期要件を選択したほうが得になる場合もあり、短期要件、長期要件それぞれを十分吟味することが肝心です。

短期要件と長期要件

短期要件1.被保険者(失踪の宣告を受け、行方不明当時被保険者だった者()も含む)
2.被保険者であった者が、その資格喪失後に被保険者であった間に初診日がある傷病により初診日から5年を経過する日前に死亡したとき
3.障害等級1,2級の障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
※1,2については保険料納付要件を満たしていることが必要
長期要件4.老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たしている者が死亡したとき
※4については保険料納付要件は問われない(老齢厚生年金の受給権者または受給資格者は、保険料納付済期間と免除期間の合計が25年以上あるので)

()死亡の推定と失踪宣告

死亡の推定
船舶や飛行機の沈没、墜落により生死が3ヶ月間わからない場合または死亡が3ヶ月以内に判明した場合は、行方不明になった日にそのものは死亡した者と推定され、遺族厚生年金の受給権は死亡したと推定される日に遡って発生します。
失踪宣告
生死が7年間不明の場合は、利害関係者の請求によって家庭裁判所は失踪の宣告をし、行方不明となった日から7年が経過したときに死亡した者とみなされます。遺族厚生年金の受給権はその7年が経過したときに発生します。
支給要件の特例

旧厚生年金法で受給権が発生した老齢年金や障害年金は新法の年金給付は原則として受けられませんが、遺族厚生年金では以下の条件に該当する人には遺族厚生年金を支給します。

  • 昭和61年4月1日前に初診日がある厚生年金の被保険者が、資格喪失後に初診日から5年を経過する日前に死亡したとき(短期要件2)
  • 旧厚生年金法の障害等級1,2級の障害年金の受給権者が死亡したとき(短期要件3)
  • 大正15年4月1日以前に生まれた者で、旧厚生年金法の老齢年金の受給資格期間を満たしている、または受給権者が死亡したとき(長期要件4)

遺族厚生年金における遺族

被保険者または被保険者であった人が死亡した当時、生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母を遺族とします。妻以外の遺族には年齢等の条件があります。

生計を維持していた者とは、死亡当時、そのものと生計を同じくしていた者であって、年間850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものをいいます。

遺族の条件

年齢要件、障害要件問わず
事実婚も含む
子,孫死亡の当時18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、または20歳未満で障害等級1,2級に該当する障害の状態にあり、かつ現に婚姻していないこと
被保険者または被保険者であった者の死亡当時胎児であった子が出産したときは、将来に向かって、その子は被保険者または被保険者であった者の死亡当時その者によって生計維持していた子とみなされる
夫,父母,祖父母死亡の当時55歳以上であること。ただし、60歳に達するまではその支給を停止する。
障害等級1,2級に該当する障害の状態にあること。(平成8年4月1日前に被保険者等が死亡した場合に限る)

遺族の順位

1.配偶者と子、2.父母、3.孫、4.祖父母の順ですが、配偶者と子の順位は原則妻→子→夫となります。

遺族順位
妻と子が遺族である場合
原則は子に対する遺族厚生年金は、妻が遺族厚生年金の受給権を有する間は支給停止されます。しかし、妻と子が別居していて生計を同じくしていないときは、妻には遺族基礎年金が支給されず子に支給されます。その場合、妻に対する遺族厚生年金も子に支給することになります。(遺族基礎年金受給権者に遺族厚生年金も支給)
夫と子が遺族である場合
夫に対する遺族厚生年金は、子が遺族厚生年金の受給権を有している間、支給停止されます。
死亡当時胎児であった子が生まれた場合
父母、孫、祖父母は子より順位が下位ですから、死亡当時胎児であった子が生まれた時点で受給権は消滅します。

遺族厚生年金はいつまでもらえる?

遺族厚生年金の受給権者は、次のいずれかに該当した場合受給権は消滅します。

  1. 死亡したとき
  2. 婚姻をしたとき(事実婚を含む)
  3. 直系血族または直系姻族()以外の者の養子となったとき(事実上養子縁組関係と同様の事情にあるものを含む)
  4. 離縁(養子縁組をしていた子の場合)して親族関係が終了したとき
  5. 障害等級1級または2級の状態にない子または孫については、18歳に達した日以後最初の3月31日が終了したとき
  6. 障害等級1級または2級の状態にある子または孫については、その事情がやんだとき、または20歳に達したとき
  7. 父母、孫または祖父母は、被保険者または被保険者であった者の死亡当時胎児であった子が出生したとき
  8. 他の受給権者を故意に死亡させたとき
  9. 障害等級1級または2級に該当する夫、父母または祖父母はその事情がやんだとき(死亡日が平成8年4月1日前にある場合)ただし、夫、父母または祖父母が受給権を取得した当時、55歳以上であったときは除く。

直系血族または直系姻族とは?

直系血族・直系姻族

右図は被保険者からみた直系血族と直系姻族の相関図です。子を基準にすると父方の父母(祖父母)は直系血族となり、母方の父母(祖父母)は直系姻族となりますが、父母の兄弟姉妹は直系とはならず、傍系となります。

たとえば、子が祖父母の養子となった場合は、受給権は消滅せず、叔父の養子となった場合は、傍系との縁組みなので受給権は消滅します。

夫の死亡当時30歳未満の妻は受給権消滅時期が異なります。
30歳未満の妻

子のない妻と子のある妻とでは少々取り扱いが違ってきます。子のない妻は遺族基礎年金を受給できませんから、遺族厚生年金は受給権取得後5年で打ち切りとなります。

子のある妻は遺族基礎年金が支給されますが、子が死亡したり、婚姻したり、18歳以後最初の3月31日が到来することなどによって失権すると、遺族基礎年金は支給されなくなります。その時点から5年間は遺族厚生年金が支給されますが、経過した時点で打ち切られます。

なお、この措置は平成19年4月1日以後に該当する者に適用されます。

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